文芸共和国の会

考えるためのトポス

【予告】9/15 第11回 文芸共和国の会シンポ「技術と人間の協働」

※ 公費申請用プログラム

www.dropbox.com

※9/14(金)19:00~小倉Gallery Soapにて、シンポに登壇いただく秋吉康晴さんとメディアアーティストの城一裕さんのトークセッションを開催します。詳しくは以下のFBページをご覧ください。

www.facebook.com

 ※9/15 18:30よりシンポ会場近辺で懇親会を開催します。一般4,000円、学生2,000円以下(人数次第)を見込んでいます。参加希望者は8月末日までに逆巻(vortexsitone@gmail.com)までお知らせください。

 

 ※文芸共和国の会メーリングリスト登録希望者は、逆巻(vortexsitone@gmaiil.com)まで「氏名」と「専門 or 関心領域」を明記の上、ご一報ください。本会の趣意に賛同いただける方であれば、資格は不問です。

 

 

 

第11回文芸共和国の会シンポジウム

「技術と人間の協働、

ユートピアでもディストピアでもない、生成するこの世界が、」

 

日時: 9月15日(土) 12:00~18:00

場所: 西南学院大学 西南コミュニティセンター 二階

f:id:republicofletters:20180829134659p:plain

    (〒814-0002 福岡県福岡市早良区西新6丁目2−92 ℡ 092-823-3952)

    地下鉄空港線西新駅からの経路案内→Google マップ

   

    誰でも参加自由/無料/途中入退場自由

 

 演者: 佐藤 正則 (ロシア思想)

     磯野 真穂 (医療人類学)

     秋吉 康晴 (聴覚文化論) 

 

                 ―各発表の概要―

 

ロシア革命とポスト・ヒューマンの思想

                                    佐藤 正則

 

1917年のロシア革命は世界で初めての社会主義社会建設の試みでした。しかし、ロシア革命で権力を奪取したボリシェヴィキがめざしたものは、新たな政治・経済体制にはとどまりません。彼らは、人間そのものを精神的にも肉体的にも、これまでとはまったく異なるものにつくりかえようとしていました。そうした新しい人間創造の理念や実験を、短命に終わった非現実的で荒唐無稽なユートピア的夢想としてかたづけることも、スターリン主義体制というディストピアの予兆とみなすことも、おそらく適切ではないでしょう。ボリシェヴィキは、20世紀初頭の西欧における新たな哲学・科学思想の登場と機械生産の急速な発展を背景として、西欧近代に代わる新たな世界観と人間観を構築しようとしていました。ボリシェヴィキの思想や実験は、21世紀の社会が直面する人間と科学技術をめぐる深刻な問題や、現代の最新哲学・思想のある重要な部分を先取りしています。そこではコンピューターによって可能になる社会全体の自動統御システム、サイボーグを彷彿させる機械と人間との融合、今日の生物工学さながらの人間身体の生物学的改造が探求されています。さらには、人間と非人間とを同一の原理で把握する新たな世界観・人間観が構築されており、それらは、現在のポスト・ヒューマン的思想、思弁的実在論や新実在論すら思いおこさせます。およそ100年前のロシアの人々が21世紀に生きる私たちと同じ精神的課題を共有している、と言ってもよいのかもしれません。こうした革命期ロシアのボリシェヴィキの新しい人間創造の理念と実験を見ることによって、現代の私達にとって、技術と人間との関係を問いなおすための新たな知見が得られるのではないでしょうか。具体的には、十月革命以降1930年代初頭にかけてのボリシェヴィキや当時の前衛的芸術家、科学・技術者たちによる、新しい人間創造の理念と実験のいくつかをとりあげる予定です。

 

 

科学を身に付ける――食と医療の現場から

                                    磯野 真穂

 

 イギリスの社会学者であるニコラス・ローズは、医学の射程が、ふれて感じることのできる「モル的」な身体から、より細分化された分子的な自己に及んでいると指摘する。また私たちが誰であるかというアイデンティティに関わる問いも、程度の差はあれ生物学の言葉に根差しており、その意味で現代に住まう私たちはますます自分の生物的身体に依拠した「ソーマ的自己」を生きると述べる。

 ローズのいうように、20世紀後半から医学は大きな変容を遂げている。その変容とは、いまここで苦しむ人を救う医学から、リスクを算出し、ハイリスク群に介入する予防的な医学の誕生である。確率統計論に基づきリスクが算出されるようになったことで、すべての人間が医学のまなざしの配下に入った。そしてその介入のあり方は、3歳の時点で30年近く先の生活習慣病を予想するといった形で、いまと未来を特異な形で結び付ける。また人がモル的な身体から、分子レベルにまで分解されることによって、リスクとして提示される要因も同じくより細分化されている。

 さてこのような状況を踏まえて本発表でとりあげるのは、これまで発表者が行ってきた摂食障害脳卒中を予防するための抗血栓療法、そして糖質制限のフィールドワークを通じて得られた人々の語りとふるまいである。分子的な自己、リスク、エビデンスといった存在は、きわめて抽象的であるため、実生活においてその存在を確認したり、体感したりすることはほぼ不可能である。しかしそれでもなお私たちは、このような存在を現実のものとし、その影響をときに「実感」しながら生きる。本発表では、栄養素やエビデンスといった、具体的事物を抽象化して作られた概念が個々人の生のなかで、いかに具現化され、息づくのかをみてゆきたい。

 

 

〈しゃべる機械〉の考古学

                                    秋吉 康晴

 

 最近、コンピュータがますます「おしゃべり」になっているように感じられる。比喩ではなく文字どおりの意味で、人間のように発話し、ときには歌うコンピュータがいつのまにか日常の一部になりつつあるようだ。外出先で電車やバスに乗れば、乗務員の代わりにアナウンスをおこなうアプリケーションの音声が耳に入ってくるし、自宅に帰れば、家電製品から指示の言葉が飛んでくる。また、コンピュータ音楽の分野では歌唱を合成するアプリケーションがすでに普及しており、ライヴ・コンサートを開く「ヴァーチャル・アイドル」が活躍している。さらには、スマートフォンを手にすれば、人工知能のアプリケーションといつでもどこでも対話を楽しむことができる、といった具合だ。こうした例をあげれば枚挙にいとまがなく、コンピュータによってつくられた人造の音声を耳にしない日はないと言っても過言ではない。

 人間の代わりに話し、歌う機械が社会に蔓延したら、どうなるのか。ひとびとのあいだからは、期待と不安が入り混じったさまざまな声が聞こえてくるが、そうした声に応じて未来を予測することは報告者の能力を超えているので、優秀なSF作家たち(もしくはSF作家まがいの科学者たち)に任せておきたい。そのかわりに本報告では過去を振り返りながら、〈しゃべる機械〉がいかなる欲望のもとで生まれたのかを問うてみたい。

 人工的に音声を模倣するという試みは、実のところコンピュータの着想よりも古く、電話や蓄音機といった音響技術の発明者たちにもすでにみてとることができる。電話を発明したベル、そして蓄音機を発明したエジソンが抱いていたのは、人間の心身とわかちがたく結びついていた声という現象を機械の領域に開放しようとする強烈な欲望であった。本報告ではとくに1877年前後のエジソン周辺の試みに注目しながら、人間と機械の境界を再定義する実践として彼らの活動を読み解いてみたい。そうすることで、本シンポジウムの参加者が〈しゃべる機械〉たちと今後どのように関わりたいかを――憶測や予測ではなく、あくまでも欲望のレベルで――問うきっかけが生まれることを期待する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

文芸共和国の会は、学術的出会いの場を広島以西の地方に、2016年2月に8名の有志の協賛により立ちあげられた会です。これまで広島、山口、北九州、博多で順次開催されてきました。

しかし「会」といっても、馴染みの仲間が集まる内輪の「相互扶助の会合」ではなく、もっぱら今まで会ったことのない知や人と「出会う」ための会です。地元の方を中心に、学者/市井の隔てなく、共に学術のおもしろさや価値をわかちあいます。難しくてよくわからないけどおもしろい、というところから学術への関心は始まります。無知も失敗もすべて許容しつつ、学術への関心とその場で投げかけられる問いを一緒に育てていく場です。

第11回の今回は、AIの進化やシンギュラリティをぼーっと夢見るユートピア、あるいは人間の失職・退化の恐れを拱手傍観するディストピアのような極端で近寄りがたい発想を退け、人間が生みだす技術と技術が可能にする人間の共生を、このふつうで日常的な現実世界の絶えざる生成にとって必須不可欠な要素として多角的に問い直します。

登壇者は三人。コミュニズムの夢が萎んだ今こそアクチュアリティを得ているもうひとつのロシア、ボリシェヴィキの科学技術と新しい人間に関する思想を研究する佐藤さん。医療現場やダイエット、糖質制限摂食障害に対し質的調査の見地からアプローチし理論の間隙を突く磯野さん。フォノグラフを始めとするエジソンの発明に人間には発声できない新しい音を創造する欲望を見る秋吉さん。

以上のように、まったくの異分野どうしの専門家を突き合わせ、そのあいだに対話の可能性をひらくのが文芸共和国の会の最大の特色です。

また、わかったふりをするのではなく相互理解を深め、問いの重みを知ることが、考える営みにとってもっとも不可欠であるという信念のもと、登壇者を含め、参加者全員で車座を組んで、三者のご発表内容をベースとして3時間の議論を行います。

あなたと出会いたい。