文芸共和国の会

考えるためのトポス

第三回文芸共和国の会@広島レヴュー

 ※読書会の要約集を公開しました(10/16)

 

 世話人を務めております、逆巻しとねです。

 9/11(日)に県立広島大学サテライトキャンパスで行われた第三回文芸共和国の会について報告します。

 広島カープ25年ぶりのリーグ優勝が決定した翌日ということもあり、広島の街はどこも人波と車列でごったがえしていました。そんな中、遠方よりお越しいただきましたみなさまにまず感謝申し上げます。初めての参加者数名からとても前向きな感想をいただきました。本会も福岡・山口・広島と一巡して、ようやく少しはスタイルが固まってきたのかもしれません。今後も継続は力なりの精神で、微調整を加えながら年四回の開催を維持して参りたいと思います。

 はじめに、現代アメリカ文学がご専門の栗原武士さんに、アメリカ合衆国における労働者階級研究に関するご発表をしていただきました。先行研究を総合的に扱いながらも丁寧に分類していただいたので、とてもわかりやすかったです。また、発表者自身の来歴から語り起こした後に論を展開する、という構成にも感銘を受けました。研究と生がオーバーラップして、聴衆は自分の問題として引き受けることができたのではないでしょうか。そのためか、積極的な意義づけが行われるマルクス主義的な労働者階級とは似て非なる「非」中産階級として意識にのぼる労働者のアイデンティティ、イギリスの絵画における労働者の表象、アイルランド系アメリカ人の貧困の表象、生涯変わらないインドのカーストと階級の可変性など、さまざまな議論が活発に交わされました。映像の使用や書籍展示など随所に関心を惹く工夫があった点も今後運営していくうえで参考になるでしょう。わたし自身、ファシリテーターを務めるのは二回目でしたが、みなさんのご協力もあり自由に発言できる雰囲気があったように思います。

f:id:republicofletters:20160927160708j:plain

 次にトマス・ラカーの著書_The Work of the Dead_をテクストに読書会を行いました。コーディネーターを田多良俊樹さんにお願いし、担当者が各自レジュメを作製し、口頭で発表するという形式をとりました。しかしなにぶん本文が500ページを超える大著で、これを二時間半ほどのあいだに終えることは難しく、議論をする時間も確保することができませんでした。これはひとえに選書したわたしの責任です。今後、読書会を開催する際には、課題図書の選定から慎重に行い、また形式についても再検討が必要であると思われます。しかしながら、各自の発表方法・レジュメの作製方法が実に個性的で、バラエティに富んでいたというのは意外な発見でした。性格が出るものなのですね。

  読書会の要約集をdropbox経由で公開します。

www.dropbox.com

 

 以下に栗原さんのレポートを公開します。

 

 

         アメリカ労働者階級研究のいま

     ――その歴史的経緯と将来的展望――
                      文責: 栗原武士

【発表の概要】
 本発表では1990年代に産声をあげた一群の労働者階級研究、John RussoとSherry Lee Linkonのいう「新労働者階級研究」(the new working-class studies) について、その特色と主に文学研究における実践に重きを置いて解説を行った。前段としてそれ以前の労働者階級についての諸研究の動向をまとめることで、新労働者階級研究が、従来の労働者階級研究における反省をふまえ、新たな特色を持っていることを示すことができた。いささか乱暴なまとめ方をするならば、新労働者階級研究は、労働者階級の人々の労働、政治的闘争のみならず、日常生活における権力関係に注目し、生活、言語、労働者階級の視点などに階級がどのように作用するのかを問う研究領域だといえるだろう。つまり、労働者階級という概念を包括的に理解するためには労働 (の場) や収入を分析するだけでは不十分であり、労働者階級の人々の職場以外での生活様式、つまり彼らのもつ固有の文化にも目配りをすることが必要なのである。
 そのような特色を持つ新労働者階級研究では、労働者階級の包括的理解のための重要な手法のひとつとして、様々なジャンル・メディアにおける労働者階級表象に着目する研究の重要性が指摘されている。本発表ではこのことに鑑み、1970-80年代の白人男性労働者の経済的・精神的苦境を描いたRaymond CarverとRussell Banksの諸作品に触れ、階級という概念が彼らの男性性不安・白人性不安にどのように関連しているかを考察した。

 

【発表を終えて】
 発表者は現代アメリカ文学を専門としているが、各参加者の専門知の共有をめざす「文芸共和国の会」という場の特色を生かすため、発表では新労働者階級研究におけるさまざまな文献の紹介を意識的に行った。オーディエンスの参考のために、研究会場では関連書籍の展示も行った。実際に本を手に取って目次に目を通すだけでも、書籍の内容を大まかに理解していただけたのではないかと思う。今後も可能な範囲で (書籍の運搬は少し骨が折れた) このような試みが続けられるとよいのではないか。
 本発表の準備のために様々な資料と文献にあたったが、発表者自身まだまだ理解が浅い点も数多くある。労働者階級文学作品が提示する労働者階級特有の日常的経験とセンチメントをどのように言語化するかという問題を、今後も継続して考えていきたい。